大学入試に英語の民間試験を導入することの問題点って何だろう?萩生田文科相の「身の丈」発言【書評】

そもそも大学入試に英語の民間試験を導入するという話を進めてきたのは経済同友会プロジェクトチーム(委員長・三木谷浩史氏)と言われる。2013年4月に発表した要望書にはTOEFLを大学入試に導入することで「国際標準化」すると記されている。その後多くの議論を重ね、民間試験の導入は2020年から開始される予定だった。ただ民間試験を導入するという案のマイナス面は今になってようやく大きくクローズアップされることになった。


当初からこの政策は教育格差や地域間格差の影響を受ける受験生が出てくるという指摘は多くあった。しかし当時のメディアは概ねこの政策を肯定的に報じていたという。鳥飼久美子氏の著作『英語教育の危機』(2018年出版)は、政策を報じる当時のメディアが概ね肯定的に捉えていたことを指摘している。例えばNHK「ニュース・ウォッチ9」などを挙げてメディアの報道の傾向について指摘を行っている。ニュース・ウォッチ9では「大学入試が変わることを簡単に伝え、英語は民間試験を使うことを肯定的に説明」するに留まった。またキャスターは「日本の学校英語教育は、これまで読み書きばかりだったから、この入試改革で話せるようになるのは良いですね」とまとめていたという。しかし民間試験を導入するだけで日本人が話せるようになるのかはかなり疑問である。鳥飼氏は大学入試に民間検定試験を用いることで本当に英語力は伸びるのかという本質的な点についての議論がないまま短絡的に議論されることを憂慮している。


しかし、その政策が批判されるきっかけとなったのは萩生田文科相が英語民間試験の活用について「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」とテレビ番組で述べた発言。この発言は教育機会の公平性をあまりにも軽視した発言だとして大きな批判を集め、民間試験の活用が延期される事態となった。


ただ私は政治家の揚げ足取りをしたいわけではないので、今回は本質的な問題に立ち返って、民間試験の導入の問題点について考える。今回は2つの著作を基にまとめていく。


今回参考にする書籍は以下の2冊↓

 

英語教育の危機 (ちくま新書)

英語教育の危機 (ちくま新書)

 
「グローバル人材育成」の英語教育を問う (ひつじ英語教育ブックレット)

「グローバル人材育成」の英語教育を問う (ひつじ英語教育ブックレット)

 


①検定料の負担
センター試験の一発勝負とは違い、民間試験を数回受けられるというのは良い案のように思われる。ただ民間試験の受験料は最低でも5000円、高額なものは2万円以上もする。このような試験を何度も受けるとなったら保護者にとってはかなり負担である。さらに高校は民間試験に対応する時間や人的リソースが不足しているため、多くの受験生は予備校や塾に頼らざるを得ない。親の経済状況で民間試験対策の量や質が変わるということになり、従来よりもさらに教育格差が広がることが予想される。

②高校英語教育の目的が民間試験の対策になってしまう
民間試験が大学入試に導入されると、学校側は得点をどのようにして効率的に上げるかということに重点を置くだろう。高校英語教育が民間試験の傾向と対策を伝授するだけとなり、総合的な英語力が乏しいまま生徒たちが卒業するということも考えられる。生徒たちは実際の英語力が身につく訳ではなく、民間試験のテクニックだけを身につけることになることが予想される。

③外部の民間試験は学習指導要領とは整合しない
外部検定試験は文科省が定める学習指導要領とは整合しない。文科省は教育課程の標準である学習指導要領を定期的に改訂・発表し、全国どこに行っても同じような教育を受けられるようになっている。しかし民間試験は高校までの間に個々の学校でどのような英語を学んできたのかを測定するわけではない。例えばTOEFLは北米への留学のために必要な試験、TOEICはビジネス英語を測定するための試験である。学校現場は学習指導要領に従いつつも、この学習指導要領にそぐわない民間試験の対策にも追われることになり、混乱することが予想される。

 

 

 

 

今まで専門家や教育現場など様々な方面から批判があったにも関わらず、今まであまり大きくクローズアップされてこなかったことは問題視されるべきでは、とも思う...。初めから本質的な問題点についてしっかりと議論して、その対策を講じておくべきだった気はする(メディアも然り)。

 

 

 

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